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里の秋

              彼は童謡が好きだった。

          中でも 「里の秋」という歌が好きで、むかしから時々口ずさんでいた。

          新婚間もない頃のこと。その日も一人で 「里の秋」を歌っていた。

           しずかな しずかな 里の秋

           おせどに木の実の 落ちる夜は

          そこまではよかった。

           ああ、母さんと ただ二人

               と歌いだした途端に、そばで聞いていた妻がすごい剣幕で

            「そんなにお母さんが好きだったら、一緒に居ればいいじゃない!」

          と怒った。

            彼は、一瞬 妻が何を怒っているのか判らなかったが、すぐに気づいた。

           「これは、ただの歌じゃないか!それにこの歌は、戦争に行っている父親の

           無事を祈りながら、故郷で母と子 二人きりで栗を煮ているーーという内容な

            のにーー」と、憤慨した。

             「 女って、何て理不尽なんだ!」 とも思った。

           しかし、それから彼は 「里の秋」を歌うときは 妻に隠れて、あるいは妻に聞こえ

             ない様に歌うようになった。



            

         
by tramasato | 2010-09-15 15:20


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